伝記
バシレイデースは、2世紀にエジプトのアレクサンドリアで活動した初期のグノーシス主義の教師である。バシリデスとも呼ばれ、居住地にちなんでアレクサンドリアのバシレイデースとも称される。生没年は85年頃から145年頃とされるが、アレクサンドリアのクレメンスによれば117年から161年の間に活動したという。弟子たちが興したバシレイデース派の祖である。
その経歴には不明な点が多い。使徒マティアから教えを受け継いだと主張したとされ、シモン派の教師メナンドロスの弟子だったとも、ペトロの弟子グラウキアスの弟子だったともいわれる。アグリッパ・カストルの報告によれば、福音書に対する24巻の注解書『エクセゲティカ』を著したとされ、最初期の福音書注解者の一人にあたるが、この書は今は完全に失われている。オリゲネス、ヒエロニムス、アンブロシウスは「バシレイデースの福音書」に言及するが、それはおそらく『エクセゲティカ』を取り違えたものとみられる。
その思想を伝える主な資料は、リヨン司教エイレナイオスの『異端反駁』と、ローマのヒッポリュトスの著作である。ただし両者の記述は著しく食い違い、かつてはヒッポリュトスの説明のほうが信頼できると考える研究者が多かったが、近年は議論が分かれ、どちらも信用できないとする見方さえある。エイレナイオスによれば、性別を持たない父が第一の原理であり、そこから知性、言葉、思慮、知恵、力の五つが次々に流出した。アレクサンドリアのクレメンスは、八つの原初の神からなるオグドアドを説いたと述べる。その八つは「正義」とその子である「平和」などからなり、それらは単なる人間の徳目ではないという。ナグ・ハマディ文書の『真理の証言』も、彼がオグドアドを信じていたことを裏づける。この考えはアレクサンドリアのユダヤ系グノーシス文書から得たのかもしれない。
エイレナイオスはさらに、知恵と力が天使の一団を造り、その天使たちが第一の天を造り、その流れ出た天使たちが第二の天を造り、こうして365の天が造られたと伝える。これは一年の日数が365日である理由でもあるとされる。人間の知る世界は最後の天にあたり、最後の天使たちの長がユダヤ人の神だという。イエスについては、正典の福音書の伝える生涯をおおむね受け入れていた。エイレナイオスは、十字架への道でキレネのシモンとイエスの姿が入れ替わり、シモンが磔にされたと報告するが、ミヒャエル・デイヴィッド・リトワは、これは他の説と混同されたものだと論じている。
救いは信仰ではなく、神的な存在であるイエス・キリストが人間に示す秘められた知識、すなわちグノーシスによってもたらされると教えた。信仰を、現前しないものへの魂の同意と捉え、選択ではなく本性に属すると考えた。弟子たちが興したバシレイデース派は少なくとも2世紀にわたって存続し、4世紀末のエピファニオスはナイル・デルタに残るその存在を認めている。ただし2世紀後半には主流のグノーシス主義に溶け込んだ可能性が高い。派は至高者アブラクサスを崇拝したことで知られる。20世紀には、分析心理学の創始者カール・グスタフ・ユングが、小冊子『死者への七つの教説』の中で自らをアレクサンドリアのバシリデスと称し、善の神ヘーリオスと悪の霊サーターンの二元論を述べ、両者が共通して依拠する霊的原理としてアブラクサスを定義した。ユングのアブラクサスは善悪を超えた、あるいは善悪両面の機能を持つ「はたらき」であり、彼はプレーローマについても記している。
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