HISTORICAL PERSON · 紀元前546年没

アナクシマンドロス

ミレトス学派の哲学者でタレスの弟子・後継者。万物の始源を「無限なるもの」とし、日時計で夏至・冬至を見分け、人の住む世界の地図を初めて描いたとされる。『自然について』などの著作は現存しない。

生涯
紀元前546年没
死亡地
トルコ共和国(アイドゥン県 / ミレトス)
出生地
トルコ共和国(ミレトス)
出典
世界地図
トルコ共和国(アイドゥン県)

伝記

アナクシマンドロスは、紀元前610年ごろにミレトスで生まれ、紀元前546年ごろに没したとされる古代ギリシアの哲学者である。父はプラクシアデスといい、タレス、アナクシメネスとともにミレトス学派(イオニア学派)の代表に数えられる。タレスの縁者であり、その弟子にして後継者だったと伝えられ、アナクシメネスにとっては師にあたる。アテナイのアポロドロスによれば、紀元前547年から546年にあたる年に64歳で、その後まもなく没したという。彼の死は、ヘラクレイトスの誕生と同じ時期だったとされる。

生涯の断片はいくつかの逸話から知られる。ディオゲネス・ラエルティオスによれば、あるとき歌っていて少年たちに笑われたが、「少年たちのために、もっとうまく歌わなければならない」と言ったという。アイリアノスによれば、ミレトス人はトラキア沿岸のアポロニアへ送る植民団の指揮を彼に託した。そのことから、相応に名の通った市民だったと考えられ、立法者として派遣されたか、ミレトスの名で現地の権力を保つ任を負ったのだろうと推測されている。また、スパルタで地震が起こると予言し、実際に起きたという話も伝わる。日時計を初めて使って、夏至・冬至と春分・秋分を見分けたとされ、ギリシア世界で人の住む全地域を地図に描いた最初の人物ともいわれる。主な著作として『自然について』『大地周航記』『彷徨わぬ者たち(恒星)について』『天球論』などが挙げられるが、いずれも現在には伝わらない。テミスティオスは、ギリシア人で初めて自然についての書物を散文で公にした人物と述べ、その文章は最古のギリシア語散文の一つとされる。ただしアリストテレス以前に彼の書物への言及はなく、プラトンの時代には忘れられていたかもしれず、断片が残ったのは、アリストテレスやテオフラストスらの記述のおかげである。

思想の中心は、万物の始源(アルケー)を「無限なるもの」(ト・アペイロン)とした点にある。それは単一で運動し、永遠に働き続けるもので、あらゆる事物はそこから生まれ、そこへ滅びて帰る。生成と消滅は、熱と冷のように対立するものが分かれ、円環をなして続くことによるとされ、対立するものは互いに罰と償いを支払うと語られる。世界は、この運動の中で熱いものと冷たいものが分離して形づくられたとされ、天体は空気に閉じ込められた火の環で、筒状の噴出孔から見えるものが天体の姿である。円柱状の大地は宇宙の中心に浮かび、日蝕や月蝕は孔が塞がることで起こるという。生物は湿ったものの中から太陽の熱で生まれ、人間は魚に似た動物から生じ、その体内で育ってから陸に上がったとされる。彼はまた、宇宙を「世界」と最初に呼んだ人物と伝えられる。

後世では、多くの古代の著者が、自然を神話ではなく自然そのものから考えようとした最初の人物の一人とみなした。物理学者ロヴェッリは、大地が空に浮かび、その下にも空が広がること、生物が環境の変化に応じて変わることなど、現代人が共有する世界像の基本原理を築いたと評している。ハイデッガーは、西洋形而上学の成立以前の根源的な思索者として彼を高く評価した。彼は、自然を人が手を加える製作ではなく生成として捉えるべきだと考え、イオニア学派を未熟な哲学とみる通説には現代人の先入観が混じっていると指摘した。

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