伝記
パメラ・リンドン・トラバースは、1899年8月9日にオーストラリアのクイーンズランド州メアリーバラで生まれた児童文学作家・女優で、P・L・トラバースの筆名でも知られる。本名はヘレン・リンドン・ゴフという。3姉妹の長女で、後半生の大半をイギリスで過ごした。父トラヴァース・ロバート・ゴフはロンドン生まれのアイルランド系で、銀行の支店長まで務めたが、アルコール依存症のために地位を落とし、若くして亡くなった。母マーガレットはオーストラリア生まれのスコットランド系で、兄弟にクイーンズランド州首相を務めたボイド・ダンロップ・モアヘッドがいる。生家は銀行の建物の上階にあった支店長の住まいだったという。
幼いころは、アイルランドでの暮らしを語る父の不思議な話を聞いて育った。のちに有名になってから、トラバースは自分の幼少期について、父はサトウキビ農園の農園主で自分はそこで幼児期を過ごした、父はアイルランド生まれだった、と偽って説明し、生年も1906年だとしていた。実際には、父が銀行員になる前にサトウキビ農園の監督をしていたことがあった程度とされる。7歳のとき、父が病で亡くなった。母は悲嘆のあまり川に飛び込んで自殺をはかったといい、その後、一家は母を育てた大叔母の家に引き取られた。家庭の事情もあって大学には進まず、ハイスクールを出るとタイピストとして働いた。一方で舞台女優をめざし、1920年に初めて舞台に立った。このとき名乗った芸名が、父の名にちなむ「パメラ・トラバース」である。学校時代に演劇を好きになり、劇団でシェークスピア劇などに出演したとも伝わる。
1924年にイギリスへ移住し、創作活動に転向して詩人としてデビューした。アイルランドの詩人でジャーナリストのジョージ・ウィリアム・ラッセルとの交流が始まったのもこのころである。やがて児童向けの小説や詩を数多く発表した。最もよく知られた作品は、不思議な出来事を起こす子守兼家庭教師メアリー・ポピンズの物語で、第1作は1934年に出版され、「帰ってきたメアリー・ポピンズ」(1935年)、「とびらをあけるメアリー・ポピンズ」(1943年)、「公園のメアリー・ポピンズ」(1952年)などの続編が書かれた。「メアリー・ポピンズ AからZ」(1962年)、「さくら通りのメアリー・ポピンズ」(1982年)、「メアリー・ポピンズとお隣さん」(1988年)も著している。このほか、小説に『フレンド・モンキー』(1971年)、ノンフィクションにグルジェフの伝記などがある。
第二次世界大戦中は英国の情報省で働いてニューヨークを訪れ、そこでウォルト・ディズニーから映画化権の売却を持ちかけられた。長い交渉の末に権利を得たディズニーは、1964年に映画を公開した。しかしトラバースはこの映画に不満を表した。シャーマン兄弟の音楽が作品にうまくなじまず、設定全体が甘い話になりすぎていると考えたのである。その製作の裏話は、2013年に『ウォルト・ディズニーの約束』として映画化され、エマ・トンプソンがトラバースを演じた。
1977年には文学上の業績により大英帝国勲章を授与された。1996年4月23日に死去した。
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