伝記
パウル・ティリッヒは、1886年8月20日にベルリン近郊の村で牧師の子として生まれた、ドイツのプロテスタント神学者である。20世紀のキリスト教神学に大きな影響を与え、組織神学と宗教社会主義の思想で知られる。幼いころは自然に親しみ、とくに海を愛した。海は彼にとって有限と無限が接するところのようであり、海岸で砂の城を造ることが楽しみで、大人になってからも好んで造ったという。ベルリン大学に進んで神学や哲学を学び、1907年にヒルシュと知り合って交友を始めたが、社会主義の深化を目ざす宗教社会主義を展開したティリッヒに対して、ヒルシュは親ナチスの姿勢を鮮明にし、両者は激しい論争を繰り広げた。第一次世界大戦では自ら志願して従軍牧師として戦場に赴き、第一級十字勲章を受けている。
ヒトラーが政権を握ると迫害を受け、1940年にアメリカへ亡命して、のちに帰化した。ユニオン神学校の教授たちは、彼の招聘の費用に充てるため、自分たちの給料の5パーセントを削ったという。亡命後は英語に慣れるのに大変苦労し、はじめは誰も彼の言うことを理解できないほど発音がひどかったが、周囲の支えと自身の努力で、英語で論文を書くまでになった。ただ、講義の英語は最後まで聞き取りづらかったといわれる。ユニオン神学校やハーヴァード大学などで教授を務めた。フランクフルト学派の哲学者アドルノの教授資格論文を認定したのも、ティリッヒである。アドルノは思想的には彼を批判したが、人物については、生涯で出会った最も卓越した人物の一人だと称賛を惜しまなかった。
彼の体系は、相関関係の原理を軸に構築されている。宗教と文化、教会と社会、神学と哲学などの境界に立ち、それらを相関させて、深い次元での統合を目ざした。人が現にある時代や状況の中で問われる問いに、キリスト教の真理によって答えるのが神学の役目であり、そこから「哲学の問いと神学の答え」という関係が生まれると説いた。信仰が外部から強制される状態を他律、人間が自らの力で立つ状態を自律と呼ぶ。しかし自律は、理性と個の力を信じるあまり、孤独に陥って生の意味や目的を見失う。そこで両者を乗り越えるものとして神律を掲げた。神律とは、自己の有限性を自覚し、自己の根底に働く神的な力に従う状態であり、外から押し付けられたものでも、孤独にさまよい出るものでもない。人をそこへ導くことが、彼の神学の目的だった。
宗教を「究極の関わり」と定義し、人が何かに究極的に関わり、それによって根本から支えられているとき、それは宗教と呼ばれるとした。この宗教観は、一般に非宗教的と考えられる人々をも包み込む。神は天上から人を見下ろす存在ではなく、存在を存在たらしめる存在の力であり、存在の根底、存在それ自体だと述べた。神について語ることは象徴を通してのみ可能だとも説いた。また、信じることは疑うことと切り離せず、疑いのなかでなお信じることは、否定を凌駕する大いなる肯定だと考えた。人は絶えず非存在の脅威にさらされており、だからこそ、存在が無に抗して自己を肯定する勇気が必要とされる。主著に『組織神学』全3巻(1951年から1963年)があり、1965年10月22日に没した。
同じ年に亡くなった人物
- スパイク・ジョーンズ (音楽) (1965年没)
- ルイーズ・ドレッサー (1965年没)
- リンダ・ダーネル (1965年没)
- ウィリアム・コスグレイヴ (1965年没)
- シドニー・チャップリン (1885年生) (1965年没)
同じ地域に関係する人物
- アウグスト・スピース (1887年没)
- ケネス・ヘンリー (2009年没)
- キャリー・ベル (2007年没)
- マディ・ウォーターズ (1983年没)
- フォレスト・モールトン (1952年没)